♪音楽禁止令、ブラック金太郎のある日

♪音楽禁止令、ブラック金太郎のある日

ときは2025年、世界大統領のイルゲルト・マッコイは、子供の頃苦手だった科目、音楽を世界からなくそうと法案を議会に提出。僅少で法案は可決し、世界中から音楽が消えた。この歌は、そんな過酷な状況のなか、歌い続けている地下音楽居酒屋、ブラック金太郎の同志諸君に、捧げる。

俺たちは、歌い続ける〜♪
たとえ、試練があろうとも
俺たちは、戦い続ける
今日もブラック金太で〜♪

「山」
「川」
「違う」
「あ、そうか、もう一度、お願いします」
「山」
「口百恵」
「よし、入っていいぞ」

ブラック金太郎の入店セキュリティは完璧だった。店主の問いかけに対して、客は「歌いびと」の名前で答えなくてはならない。音楽を愛する者にとっては造作もないことだったが、なにせ世界中で音楽は禁止されているのだ。人々はミュージシャンの名前をほとんど覚えていなかった。

「沢」
「田あやこ」
「なに?」
「…」
「沢田亜矢子も確かに歌ってたけど、もっと、ほら、有名な。もう一度行くぞ、沢」
「田研二」
「よし」

俺たちは、歌い続ける〜♪
壁際に寝返り打ちながら
俺たちは、戦い続ける
バーボンのボトルを抱いて〜♪

そんなブラック金太郎だったが、相変わらず、金曜と土曜は客が多い。今日は月の第三土曜日。大量入店が予測される。そう、今日はあの、華麗に復活を遂げた日本最大のレジスタンス・コーラスグループがやってくるのだ。

「コーラス」
「どんぐり」
「あ、どうぞ、お入りください。どんぐり様」

コーラス・どんぐりは、いまや歌いびとの希望である。他の人がどれだけロックやブルース、カントリー、はたまた歌謡曲そして演歌に移行しようとも決して自らの音楽を変えず、フォーク一筋。平和と自由をこよなく愛する歌を歌い続けて半世紀。世界から音楽が禁止されて、いち早くレジスタンス活動を開始したのは、ほかでもない、コーラスどんぐりだったのだ。

それはフォーク・ミュージックという、さだや、長渕、みゆきさん、拓郎やこうせつおじさんといった、一見、穏やかそうな、しかし、怒ると怖い人たちの歌の魂をしっかり受け継いだ反体制地下活動組織だった。

会長はもちろん、井上さんだ。コーラスどんぐりは年功序列。そして、事務局・兼・伴奏は馬場先輩、会計はいつも最年少のゾメだった…。

どんぐりは、歌い続ける〜♪
平和と自由のために
どんぐりは、戦い続ける
明るい未来のために〜♪

今日もまた、どんぐりに新規入会希望者の列ができている。土曜日のブラック金太郎ですっかりおなじみになった光景だ。

「はい、次の希望の方、どうぞ」
「どうも」
「名前は」
「相浦といいます」
「本名のことじゃない。あなたのミュージック・ネームのことだ」
「タッキーと呼ばれとります」
「タッキー…ね…。サークル名で重複は…ないな。で、どうしてどんぐりに入ろうと思ったの?」
「好きですけん、音楽が」
「ふむ…なるほど…」
「…」
「今日はちゃんと持ってきた?あなたの一番好きなミュージシャンの写真」
「はい、持ってきました。いろいろ考えたんですけど、やっぱり大学の先輩でもある佐野元春かなあと」
「フォークじゃ、ないね?」
「えっ。はあ。まあ、そうですね」
「うちの組織がフォークの団体だということは知ってるよね?」
「はあ、まあ、知っとります」
「それなのに佐野元春…ふむ…このエントリーシートによるとだね、あなた、ギター弾くね?」
「はい」
「スケールは?」
「スケールですか?」
「このシートの好きなもの欄に、ペンタトニックと深夜アニメとあるんだけど?…深夜アニメの方は、まぁいいでしょう。問題はペンタトニックだ」
「問題ですか、そこが」
「問題だね。好きなコードは?」
「好きなコードですか?それはもちろん」
「…」
「E」

タッキーはどんぐりに入れるのか?〜♪
たとえ試練があっても
タッキーは戦い続ける
明るい未来のために〜♪

「そこは、やはりCでしょう⁉」
「Cですか。」
「本当はもっと凄い、悲しみを帯びた世界最高の無敵なコードがありますが、今日のところはやめておきましょう」
「もしかしてそれはAmのことですか」
「!あんた、なぜそのコードのことを知ってるんだ?フォークでもっとも重要かつ、世界の数人しかうまく弾けないという伝説のコードネームを!…まあ、いいでしょう。少しは見込みがあるようですね。それでは最終テストです。その、佐野なんとかの写真を足元に置いて」
「なんば、するとですか?こう、ここに、こう置けばいいとですか?」
「…いいでしょう。そしたら、それを」
「…」
「踏んで。」

タッキーに課せられたつらい仕打ち〜♪
フォークじゃないんだよ元春は
タッキーは、どんぐりに、入れるのか?
明日の世界のために〜♪

「ほら、どうした踏めないのかね?」
「ううっ、うっうっー」
「どうした?反体制地下組織、どんぐりはフォークの団体だ!あんた、どんぐりに入りたいんだろう?ロックの写真なんて踏めるはずだ!」
「踏めません!僕には踏めません!」
「踏むんだ!写真を踏むんだ!」
「フォークなら、さだも好きですけん、それで勘弁してつかあさいっ」
「あんた、佐野元春の写真、持ってきてるじゃないか!一番好きなのは佐野なんだろう?さだじゃないんだろ?
踏め!踏むんだ!いまここで」
「踏めない!僕には踏めましぇん!元春が好きだから!フォークだけじゃなくて、音楽が、音楽が、好きだから!」


「その…ことばを待っていた。入会おめでとう!」

俺たちは歌い続ける〜♪
たとえ、試練があっても、おーおー
今日も自由を求めて
人々が金太に集う〜♪

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